FC2ブログ

ノイズ(1)

次にノイズについて見ていきます。

ここで言うノイズとは、抵抗や MOS トランジスタ自身から発生する雑音成分
真性雑音)のことです(外部から飛び込んでくるいわゆる外乱ノイズとは違います)。
このノイズは入力信号の状態によらず発生するため、ノイズの大きさより小さい
出力信号はノイズに“埋もれて”しまいます。つまり、ノイズの大きさが出力できる
振幅の実質の最小値
となります。

CMOS アナログ回路では熱雑音1/f 雑音が重要です。
それぞれについて見ていきます。

(1)熱雑音
 電流の元である自由電子は電圧がかかってなくても実は不規則に運動
熱振動とか熱運動とか呼ばれます)しています。逆に、運動は電圧が
かかってもそのまま残ります。
ele10_103.jpg

1秒間に通過する自由電子の数が電流ですので、この運動は電流の値に
“揺らぎ”をもたらします。この“揺らぎ”を熱雑音と言います。
J.B.Johnson がこの現象を発見したためジョンソン雑音、H.Nyquist が
理論を確立したため、ジョンソン・ナイキスト雑音とも呼ばれます。
以下に、熱雑音の波形例をしめします。

ele10_104.jpg

 この熱雑音にはいろいろな特徴があります。それぞれ見ていきます。
スポンサーサイト



ノイズ(2)

a)熱雑音はランダム → 周波数特性が平坦
自由電子の熱振動は不規則です。規則性がないことをランダムと表現します。
ある雑音がランダムの場合、その周波数特性はどうなるでしょうか?
規則性がない=特別な成分がないということですから、逆に言えば、
すべての成分が均等に入っている、と考えることができます。
このことは、熱雑音の周波数特性が平坦ということを表します。

ele10_105.jpg

周波数特性が平坦である熱雑音はホワイトノイズ(の1種)と呼ばれることがあります。
これは、同じ周波数特性を持つ光が白(ホワイト)色に見えるからです。

b)熱雑音は温度が高くなると大きくなる
 熱雑音の原因である熱運動は頭に熱がついていることからも分かる通り、
温度が高くなると運動が激しくなります(正確には熱運動の大きさで温度が
決まります)。このことは電流の“揺らぎ”が大きくなることにつながりますので、
温度が高くなると熱雑音は大きくなります

ele10_106.jpg

ノイズ(3)

c)熱雑音電圧は抵抗値が上がると大きくなる
 電流が流れる素子には、大小ありますが、抵抗が存在します。
電流の“揺らぎ”が熱雑音ですので、これら抵抗からは原理的に熱雑音が発生することに
なります。抵抗値と熱雑音の関係ですが、抵抗値が上がると熱雑音電圧は大きくなる
ことが分かっています。抵抗値が増加すると、電流値が小さくなり、熱運動による揺らぎが
平均化されにくくなるとか、単純には抵抗値の増加=固定電荷の数の増加なので、
自由電子が固定電荷に衝突する量が増えるため、元の電流値に対して、
相対的に“揺らぎ”が大きくなる、といったイメージでいいかと思います。

ele10_107.jpg

ノイズ(4)

d)雑音の振幅は実効値で表す
 ランダムである熱雑音の“大きさ“はどうやって表現すればいいでしょうか?
単純に波形の平均をとってもゼロになってしまうため、これまで同様、
実効値=2乗平均で表します。理論的には、ランダムな波形の平均はゼロでも、
”揺らぎ“により供給されるエネルギー=電力はゼロにならない(単純には他の
抵抗に”揺らぎ“による電流が流れれば、電流の向きに寄らずいつも発熱(=ジュール熱
するので、平均電力が同じとなる直流電圧である実効値のよる表現がいい、
ということになります。
 更に言うと、ある周波数を中心とした 1Hz での2乗平均値として電圧や
電流の式が立てられています
。これは、一般的な雑音が熱雑音と違って
周波数特性が単純ではないことと雑音を考慮する周波数の幅が回路の仕様に
よってさまざまであるためです。

ele10_108.jpg

ノイズ(5)

d)抵抗における熱雑音の式
 ナイキストが示した抵抗における熱雑音の電圧 Vn[V]、電流In[A] の式は
以下の通りです。

ele10_109.jpg

ここで、k はボルツマン定数(1.380×10−23 J K-1)、T は温度[K](27℃~300Kです)、
Δf は帯域幅[Hz]、R は抵抗値[Ω]です。なお、熱雑音は a) で説明したとおり、
周波数特性が平坦なため、帯域幅 Δf がすでに掛かっている式がほとんどですが、
d) で説明した1Hz当たりの式とした場合は、

ele10_110.jpg

となります。d) で説明したとおり、計算が2乗平均になりますので、2乗の形に
しています。なお、この式をどのように導き出したかについては非常に難しいので、
参考資料を掲げます。そちらを参照してください。
(なお、1.が原典です。4.が始めとしてはいいかなと思います。)

参考資料
1.http://www.physik.uni-augsburg.de/theo1/hanggi/History/Nyquist.pdf (英語)
2.http://www.engr.sjsu.edu/kghadiri/EE164/Lecture_Notes/EE164Lecture18.pdf (英語)
3.http://www.amsd.mech.tohoku.ac.jp/Thermoacoustics/Chap_11.pdf(日本語 p.18)
4.http://blogs.yahoo.co.jp/entangled74/32352164.html(日本語)

ノイズ(6)

e)MOS トランジスタにおける熱雑音の式
 MOS トランジスタも電流が流れる=抵抗があると考えられますので、熱雑音が
存在します。MOS トランジスタの熱雑音は電流源の式として表現されています。
アナログ回路で使用する長チャネルを持つ MOS トランジスタが飽和領域
(MOSトランジスタの動作(9))で使用された場合(要するにアナログ回路で)
の熱雑音の式は以下の通りとなります。
(式の導出については参考文献を見てください)

ele10_111.jpg

なおこの式ですが、d) の抵抗における熱雑音の式から、MOS トランジスタの
ソース端子から見た入力インピーダンス Rin~1/gmソースフォロア(6))で
置き換えて、長チャネルMOSの飽和領域を表す 2/3 がついたものと考えると
分かりやすいかと思います。
ちなみに、短チャンネルMOS等その他の条件も含む式として、

ele10_112.jpg

という式も見受けられます。なお、γは 2/3 から 1 の間の値とのことです。

参考文献
http://www.nikhef.nl/~jds/vlsi/noise/sansen.pdf(英語です)

ノイズ(7)

(2)1/f ノイズ
1/fノイズはすべての能動素子と一部の受動素子(一部の抵抗など)で見られるノイズで、
雑音の周波数特性が周波数に逆比例することが特徴です。
(このような性質のノイズはピンクノイズ(の1種)と呼ばれます)。

ele10_113.jpg

最初に真空管で観測され“フリッカ(ふらつき)現象”と呼ばれたことから、
フリッカノイズとも呼ばれます。1925年に現象が発見されたのですが、
いまだにメカニズムは確定しておらず、3つの説がある状態です。
(キャリアの移動度のゆらぎモデル、キャリアの数のゆらぎモデル、混合モデル)
CMOS の教科書によく出てくる式はゲート電圧の式で、以下の通りとなります。

ele10_114.jpg

KF は比例係数で、PMOS のほうが NMOS より小さい値となっていることが
多いようです。

参考文献
1.http://tfje.seesaa.net/article/127676875.html(日本語)
2.http://www.keysight.com/upload/cmc_upload/All/20100823_fnoise_vdec.pdf?&cc=JP&lc=jpn(日本語)
3.http://web.mit.edu/klund/www/CMOSnoise.pdf(英語)
4.http://www.nikhef.nl/~jds/vlsi/noise/sansen.pdf(英語)

ノイズ(8)

(3)MOS トランジスタのノイズ
 これまで熱雑音と 1/f ノイズを見てきました。次にMOS トランジスタ単体のノイズに
移ります。ノイズのレベルはとても微小なので、これまでどおり小信号等価回路で
影響等を検討します。MOSトランジスタ単体のノイズの式は、熱雑音の d) で説明した
とおり、2つの式の2乗平均になります。ただ、片方が電流式でもう片方が電圧式なので、
ΔVgs=gm*ΔIds を用いてどちらかにそろえます。
ele10_115.jpg

また、周波数特性はそれぞれを足し合わせたようなグラフになります。
ele10_116.jpg
1/f ノイズと熱雑音の境目となる周波数(fc)はプロセスにより変わりますが、
通常のサイズでおおよそ数百kHz から数 MHz になります。

ノイズ(9)

(4)ノイズの計算方法
 これまで素子単体のノイズを見てきましたが、我々が設計するのは回路やIC全体のノイズです。ここでは素子単体のノイズから回路のノイズを計算する流れを見ていきます。

1)各ノイズ成分による出力電圧をそれぞれ計算する
抵抗やMOS トランジスタのノイズは電流源で表現されますが、それぞれのノイズ成分を小信号等価回路に組み込むことで、出力電圧を計算します。

2) 1) で計算した各出力電圧の2乗平均値を取る
1) で計算した各出力電圧の2乗平均値を取ります。この値の平方根が回路の出力ノイズ電圧となります。

3) 2) で計算した出力ノイズ電圧を回路の増幅率 AV で割る
オペアンプを使った負帰還回路(反転増幅回路など)のノイズの計算を簡単にするために、2) での計算値を回路の増幅率 AV で割ります(2乗平均値のままの場合は、増幅率の2乗で割ります)。この操作(厳密にはもう少し複雑です。ノイズ(19), ノイズ(20)参照)を入力換算といい、計算されたノイズを入力換算雑音と呼びます。入力端子に入力が入っているわけではないですが、ノイズを入力信号に置き換えることで、計算を楽にしようという取り組みになります。

ele10_117.jpg

ノイズ(10)

(5)ソース接地回路のノイズ
(4)で見た流れに従って、ソース接地回路のノイズを計算してみます。

(a)抵抗負荷の場合
まず、小信号等価回路にノイズ成分を加えて出力電圧を計算します。
抵抗素子のノイズはこの場合、電流源(inr2=4kT/R)の式を使うと容易に計算できます。
ele10_118.jpg

上の小信号等価回路から分かるとおり、抵抗素子由来の出力雑音電圧は
Vout=inr×(RL//rd)となります。
次に入力トランジスタのノイズ成分です。(3)の熱雑音と1/f ノイズを入力電圧源の式に
したほうを用いると、出力電圧は増幅率 Av=gm×(RL//rd)(の2乗)をかけた値になります。
ele10_119.jpg

ノイズ(11)

これらより、ソース接地回路の出力雑音電圧は3つのノイズ成分由来の出力電圧の
2乗平均である
ele10_120.jpg

ということになります。
最後に入力換算です。今計算した出力雑音電圧を増幅率 Av=gm×(RL//rd)(の2乗)で
割ることで求められますので、
ele10_121.jpg

となり、これが抵抗負荷のソース接地回路の入力換算雑音電圧(の2乗)の式となります。

ノイズ(12)

(b)カレントミラー負荷の場合
次にカレントミラーを使ったタイプを考えて見ます。
まず入力トランジスタですが、(a)の時とまったく同じ考え方ですので、例えば入力
トランジスタが NMOS とすれば、出力雑音電圧は

ele10_122.jpg

となります。ここで、負荷抵抗がカレントミラーの PMOS のドレイン抵抗に置き換わる
ことに注意してください。
次にカレントミラートランジスタのノイズです。ノイズの計算では入力は無信号に
するため、カレントミラートランジスタのノイズを考慮する際には、あたかも入力
トランジスタが PMOS になった形となります。つまり、カレントミラートランジスタ
由来の出力雑音ノイズは入力トランジスタのそれと同じ形で、PMOS 由来を示す
添え字のみが違うだけということになります。

ele10_123.jpg

ノイズ(13)

よって、カレントミラー負荷のソース接地回路の出力雑音電圧はこれら4つの成分の
2乗平均になります。
ele10_124.jpg

最後に、今計算した出力雑音電圧を増幅率 Av=gm×(rdn//rdp)(の2乗)で割ることで
入力換算します。

ele10_125.jpg

この入力換算雑音電圧の式は、オペアンプのノイズ設計等に用いられる式です。
ノイズはもともと“邪魔”な存在ですから、この Vnin の値をできるだけ小さくしたい
ところです。どうすればいいかを示しているのが上の式で、

  入力トランジスタ: WL の値と gm の値をできるだけ大きくする
  カレントミラートランジスタ: WL の値をできるだけ大きくし、
                 gm の値はできるだけ小さくする

必要があるということです。gmの値は gmとは?(6)にあるように、
gm=K’W/L*(Vgs-Vth)ですので、さらに、W, L に関して

  入力トランジスタ: L の値をできるだけ小さく、W の値をできるだけ大きく
  カレントミラートランジスタ: L の値をできるだけ大きく、
                 W の値をできるだけ小さく


なるように設計すれば、入力換算雑音電圧が小さくなることになります。
このあたりはオペアンプのノイズ設計のところ(8Tr2段オペアンプの設計(18))で再登場します。

ノイズ(14)

(6)ソースフォロアのノイズ

次にソースフォロアのノイズを見ていきます。

計算に入る前に、小信号等価回路を見直します。
以前の検討で、電流源の向きが出力端子に向いているため、増幅率の計算が少し
大変でした(ソースフォロア(7))。実は電流源の基準電圧端子を出力インピーダンス
1/gmソースフォロア(6))で置き換えることができます。
ele10_126.jpg
この小信号等価回路を用いて、カレントミラー負荷のソースフォロアのノイズ計算を
していきます。

ノイズ(15)

まず入力トランジスタ(M1)ですが、ソース接地回路の時(ノイズ(10))と同じく
入力電圧源の式を用いて、出力雑音電圧は

ele10_127.jpg
となります。
次にカレントミラートランジスタ(M2)のノイズです。入力が無信号のために、
入力トランジスタ(M1)はあたかもカレントミラートランジスタのようになります。
よってカレントミラートランジスタ(M2)由来の出力雑音ノイズは(カレントミラー
負荷の)ソース接地回路の入力トランジスタのノイズの式と同じ形(1/gm1
抵抗成分が入りますが)になります。
ele10_128.jpg

ノイズ(16)

よって、ソースフォロアの出力雑音電圧はこれら4つの成分の2乗平均になります。
ele10_129.jpg
最後に、今計算した出力雑音電圧を増幅率 Av=gm1×(1/gm1//rd1//rd2)(の2乗)で
割ることで入力換算します。
ele10_130.jpg
なお入力換算雑音電圧の式ですが、ソース接地回路のそれ(ノイズ(11))と
まったく同じ形になります。

ノイズ(17)

(7)ゲート接地回路のノイズ

最後にゲート接地回路のノイズです。

入力トランジスタ(M1)から見ていきます。これまでと違い電流源の式を用いると、
出力雑音電圧は
ele10_131.jpg

となります。
次にカレントミラートランジスタ(M2)のノイズです。入力が無信号のために、入力
トランジスタ(M1)はカレントミラートランジスタになります。よってカレントミラー
トランジスタ(M2)由来の出力雑音ノイズは(カレントミラー負荷の)ソース接地回路の
入力トランジスタのノイズの式と同じ形になります。

ele10_132.jpg

ノイズ(18)

よって、ゲート接地回路の出力雑音電圧はこれら4つの成分の2乗平均になります。
ele10_133.jpg

最後に、今計算した出力雑音電圧を増幅率 Av=gmn×(rdn//rdp)(の2乗)
ゲート接地回路(5))で割ることで入力換算します。
ele10_134.jpg

ノイズ(19)

これまでの回路であればここで終了ですが、ゲート接地回路はさらに考慮する必要があります。それは、ゲート接地回路の入力インピーダンスが低いからです(ゲート接地回路(4))。今計算した入力換算雑音電圧 Vnin に対し、入力インピーダンス rin と前段回路の出力インピーダンス ro を追記します。Vnin と ro は直列接続で入れ替え可能なので入れ替えてみると、せっかく計算した Vnin が ro と rin で分圧される形となっています。rin が小さいと、実際の回路の入力となる Vin には分圧で小さくなってしまった電圧しか入らず、実際に出力されている出力雑音電圧 Vnout を正しく表せないことになってしまいます。

ele10_135.jpg

ノイズ(20)

このような場合、入力換算雑音電圧に加え、入力換算雑音電流を入力端子と接地点の間に挿入すればいいことが分かっています。つまり、出力雑音電圧を入力換算雑音電圧と入力換算雑音電流の2つで表現するということになります。

ele10_136.jpg

入力換算雑音電圧を求める際は入力端子を無信号(=接地)にしました(入力を接地すると入力換算雑音電流が検討回路の中に入らないため入力換算雑音電圧だけの計算ができる)が、入力換算雑音電流を求める際は入力端子を開放オープンとも言います)します。これにより入力換算雑音電圧はないのと同じになり、入力換算雑音電流だけを計算することができます。

ele10_137.jpg
いま何時かにゃ~
これまでの来場者数
単語の検索はここで
プロフィール

たみひかのろ

Author:たみひかのろ
見にきてくれてありがとう
目標であったオペアンプの設計に6年かけて到達しました。ここからは応用的な内容を書ける限り書いていきたいと思います。

ツリーカテゴリー
リンク
一休みにどうぞ
by mitti0